セミナー参加報告

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インプルーブ外科セミナー in 大阪

2025年01月29日

こんにちは、獣医師のあさぬまです。

先日大阪で行われた外科のセミナーに参加してきました。

今回の外科のセミナーはコロナ禍前から参加させていただいているもので、

かれこれ6年くらいになるのではないでしょうか(本当は2年で終わる予定でした)…。

お陰様でベーシックコースの試験に無事合格し、ISVPSといわれる国際的な獣医教育機関の外科認定医をいただくことができました。

より正確で、安全な手術を提供できるように努力を重ねていきたいと思います!

 

最後となった今回のテーマは

『肝臓』、『泌尿器』、『ヘルニア』でした。

 

『肝臓』の講義では、体内で最も大きい臓器の一つである肝臓の

外傷や、腫瘍を想定した手術の血管系を含めた解剖学の知識や、手術方法を復習しました。

代表的な肝臓の手術には、肝臓がん(肝細胞癌)の摘出手術、胆嚢摘出手術が挙げられます。

・肝臓がん

肝臓がんの中でも最も多いものは、肝細胞癌です。

癌と名前はつきますが、犬の肝細胞癌の多くは、孤立性に大きな腫瘤を形成するタイプで、摘出後の中央生存期間も1200日以上なので、

比較的完治が可能な癌と位置付けられています。

犬や猫の肝臓は6つの葉から成り立っており、どの部分に腫瘤ができるか?によっても大きく手術成績に差が出ます。

腫瘤が巨大になるまで症状を起こさないことがほとんどなので、定期健診で早期発見してあげることが非常に大切です。

特に血液検査では肝酵素値の上昇が認められ、エコー検査では腫瘤そのものを確認することが可能なので、有効性が高いといえます。

高齢動物の肝酵素上昇の原因として一般的なものなので、もし、『健康診断で肝臓の値が高いといわれたけど、薬で様子を見ましょう!と判断され、投薬を続けている…』というような状況がある場合は、

一度しっかりと画像検査を受けられることを強くお勧めします!

 

・胆嚢

胆嚢の病気は犬で多く診断される病気です。猫でも起こりますが、手術が必要になることはまれといえます。

犬は胆嚢といわれる消化酵素を貯蓄する臓器に炎症や変化を起こしてしまうことで、慢性胆嚢炎(リンパ球形質細胞性胆嚢炎)や、胆嚢粘液嚢腫を発症するとされています。

その発生原因はまだまだ不明な部分が多いのですが、内科的な治療では限界があることが多く、

症状が重い場合や、再発を繰り返す場合は、胆嚢摘出手術が実施されます。

胆嚢の疾患は重度の症状が出てしまうと、周術期死亡率が最大で60%程度になってしまうため、手術だけでなく、その後も気が抜けない状態であることが多いです。

一方で症状がないか、軽微な状態での手術では10%程度まで下げることができるので、適切に検診を重ねて、

適切な手術のタイミングを見逃さないようにすることが大切です。

 

『泌尿器』では、尿管に対する手術方法を学びました。

たまたま先日別のセミナーでも、尿管に対する手術方法を学んでいたので、その理解をさらに深めることができました!

詳しくは過去のブログ報告をご覧ください。

 

『ヘルニア』といえば、皆さん腰のヘルニアを想像されるかもしれません。

しかし、今回は他のヘルニアとして、『横隔膜ヘルニア』、『会陰ヘルニア』を学んできました。

『横隔膜ヘルニア』とは、胸腔と腹腔を隔てる横隔膜が生まれつき(先天性)あるいは後天性(事故など)で欠損してしまう病気です。

本来腹腔内にあるはずの臓器が、胸腔内に入ってしまうことで、胸を圧迫し呼吸困難に陥ってしまったり、

低血圧を引き起こす可能性があります。

症状の重症度はヘルニアの大きさや、出ている臓器の種類、急性発症か先天的かで分けられます。

基本的には寿命や活動性に異常が出てしまうことが多いので、手術で治す必要があります。

手術は胸の中に出てしまっている臓器をもとに戻し、破れてしまった(もしくは欠損している)横隔膜を修復する。

というシンプルな手術です。

しかし、横隔膜が不足していたり、大量の臓器が逸脱してしまっていることもあり、簡単な手術ではありません。

また長期にわたり、臓器が逸脱していた場合は、その臓器が肺と癒着し、時には肺を含め、臓器を摘出しなければなりません。

特に猫では症状に乏しく、発見が遅れる可能性があるので、若齢時の健診と、診断後の早期手術が必要な病気です。

 

『会陰ヘルニア』は、お尻の周りの会陰部の筋肉が薄くなり、その間から腸が飛び出してしまう病気です。

ほとんどは未去勢オスの犬に発生します。これは複数のホルモンが筋肉を薄くしてしまうためと考えられています。

ホルモン性の問題であるため、両側に発生することも珍しくなく、同時に両方の手術を実施することも多いです。

時には猫や、メスに発生することもありますが、この場合は、咳や、発情、腹腔内の腫瘍など、

併発疾患があることが多く、注意が必要です。

会陰ヘルニアでは、外肛門括約筋、肛門挙筋、尾骨筋のいずれかの間から腸や膀胱が逸脱するとされています。

しかし、それぞれの筋肉を縫合するだけでは再発率が高いため、

現在は他の筋肉(内閉鎖筋、半腱様筋、浅殿筋など)を用いて、その不足分を整復したり、

総鞘膜や人工物を用いてより強固にする手術が用いられています。

手術時は同時に去勢手術が必須です。

外科手術をしても再発率が高い疾患の一つなので、術後も内科治療を継続することが一般的です。

定期的な摘便など内科治療で治療されているケースも多いですが、内科治療では腸に穴が開いてしまうこともあり、

時として命にかかわる合併症を引き起こしかねないため、原則手術が推奨されています。

 

いままでブログでも報告させていただいたように、当院では多くの外科治療を実施しております。

しかし、すべての手術が、すべて安全に行えるわけではなく、非常に難易度の高い手術も存在しますし、

手術はあくまで治療の一つの方法であり、治療のためには、手術前の適切で完全な検査、術後の集中管理などたくさんの治療が必要です。

今後も常に新しい知識や技術を習得し、少しでも安全な治療を実施していくとともに、

飼い主様や動物の希望に沿った治療になるように努力していきたいと思います。

 

また、非常に難易度の高い手術では、軟部外科、整形外科共に、外部の外科専門医のサポートを受けながら手術を実施しております。

外科治療(もちろん内科治療)でお困りの場合は、ぜひお気軽にスタッフにお声掛けください✨